身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2008年11月―NO.73

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さらさらした卵風味の黄身餡が、極上の小豆餡と口の中で混じり合い、
そこに栗の味と歯触りが入り混じる。この調和……。

大吾の「爾比久良」


大吾の「爾比久良」
大吾の「爾比久良」
(画:森下典子)

 某女性誌の編集者サトウさんは、お仕事柄、全国津々浦々のおいしいものをよく知っている。今年4月の「さ・え・ら」に取り上げた「砂田屋の酒ケーキ」を送ってくださったのもサトウさんだった。
 仕事で電話をするたびに、
「森下さん、またいいもの見つけましたよ〜。目白の○○という和菓子屋の××がおいしかったです」
 などと、いつも新しい情報を1つ2つ教えてくださる。
 先日、お目にかかったら、
「森下さん、これ」
 と、何やら小さな紙袋を手渡された。
「なに?」
 中を覗くと、和紙に包まれた四角いものが入っていた。バラで2個……。白い包みの上に、
「爾比久良」
 と、角ばった難しい字が並んでいる。
 なんと読むのだろう?
「『にいくら』といいます」
「ふ〜ん」
(モナカかな?)
 と、思った。
 手に取ってみると、どうも感じが違う。何かみっしりとしている。和紙の包みを透かして、きめ細かいものが、ギューッと押し固められたような質感が伝わってくる。中華街の「月餅」のようにずっしりと持ち重りがした。
「是非、おうちで味わってみてくださいよ」
  そう語るサトウさんのまなざしに確かな自信が見えた。

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