何年か前、友達と一緒に梅酒を漬けたことがあった。もぎたての青梅の実を何キロも洗ってザルにあげ、一個一個拭いていたら、友だちが突然、
「ねえ、青梅ってさぁ、じっと見てると、エッチな気分にならない？」
　と、言った。私は思わず噴き出してしまった。彼女と全く同じことを思っていたからだ……。
　青梅は、茂った葉っぱの陰に隠れて、鳥や人に見えないようにこっそりと実を結ぶが、やがて、ふっくら大きく膨らむと、お尻のような青い実が、葉陰からチラチラ見え始める。青葉の茂る梅の枝から、同じ色の青梅を見つけ出すのは「かくれんぼ」に似ている。手を伸ばして採ろうとすると、ツンツンと尖った梅の枝が邪魔をする。
　身をかがめ、枝をくぐり、狙った青梅に手を伸ばす時、私はドキドキして、
（若くてみずみずしい娘を追いかける男の気持ちって、こんなかしら……）
と、思う。
　青梅の実は、表面が白い産毛に覆われて靄って見える。枝からもいで手のひらにころんと載せると、スエードのような肌ざわりがする。なんだか自分の手の中に、小動物がうずくまっているようで無性にいとおしく、指先がうずうずして、ギューッと強く握りしめたいような衝動を覚える。
　 梅の実だけではない。触っただけで指の跡がつくほど柔らかく熟れた桃の実も、ワインレッドに熟れてお尻から割れたイチジクも、「果実」というのはどうしてこんなに魅力的で、人を惑わすのだろう。