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2017年6月―NO.171

四十五年、愛され続けるには理由がある

森永製菓の「チョコモナカジャンボ」、「バニラモナカジャンボ」

「45年のロングセラー」
 というから、もちろん、昭和のわが青春にも登場した懐かしい味である。
 初めてそのアイスクリームを食べたのは、いつだったろう?高校の夏合宿だった気もするし、大学時代、授業をサボって観に行った映画館で友だちと半分ずつ割って食べたような記憶もある……。とにかく、気付いた時にはもう、モナカに包まれたアイスがそこにあった。
 だけど、その商品名をはっきり意識したのは、ほんの数年前。正確に言えば、吉川晃司がその商品名を熱唱するコマーシャルを見てからである。こんなCМだった……。
 レコーディングを前に、吉川がスタジオでインタビューに答えている。
「いやぁ難しかったよ。こっちはパリパリ感、こっちは、コクうまなのに後味すっきり。でも、ちゃーんと歌い分けるから聞いてみてよ」
 吉川は、そう自信満々に意気込みを語り、いよいよレコーディングの本番、マイクに向かって渾身でシャウトする……。
「チョコモナカジャ~ンボ!」
「バニラモナカジャ~ンボ!」
 吉川晃司の熱唱で、そのアイスの商品名は、私の耳にくっきりと焼き付いた。
 コマーシャルの効果は絶大だ。今では、コンビニのアイスクリーム売り場で見かけるたび、私はつい、
「チョコモナカジャ~ンボ」
 と、小声で歌ってしまう。
 だけど、「チョコモナカジャンボ」がロングセラー商品なのは、コマーシャル効果だけではない。そこには、ちゃんと理由がある。
 私が子どもだった昔、外で買って食べるアイスと言えば、たいてい「棒付き」だった。「棒付きアイス」は、食べるのにちょっとしたコツが要った。棒をまっすぐ持って舐めていると、やがて棒で喉の奥を突くことになる。そこで棒を横にすると、アイスが棒から外れてボタッ!と落ちたりする。そして、縦に持っても、横にしても、溶けたアイスはだらだら垂れて手を汚す……。私は、棒付きアイスが苦手だった。だらだら溶けたアイスで、よくスカートの前を汚した。
 ところが、「チョコモナカジャンボ」は、モナカを手で持って、そのまま食べられる。中のアイスも、「棒付き」に比べて溶けにくいから、だらだら垂れて手をべたべた汚すことがない。
 サイズ感もいい。齧り甲斐のある、ガッツリとした厚みと大きさ。これだけ大きなサイズだと、誰かと分け合うこともできる。
 そして、このアイスはまさに、縦三列、横六列のブロック状になっていて、碁盤の目のように走る溝できれいに割れるようにできている。二人でも、三人でも、均等にパリッと割って分け合うことができるのだ。
 さて、「チョコモナカジャンボ」の袋を破る。その瞬間、袋の中からひんやりとした空気が広がって、ブロック状の凸凹のある、コーンフレーク色の大きなモナカが現れる。
 どなたが開発なさったのか知らないが、これがクッキーでもウェハースでもなく、和菓子の素材のモナカであることを喜びたい。取り出した刹那のモナカの手触りが好きなのだ。モナカの皮のほんのりとした温もりに、心がホッとする。
 一口齧る。
「……パリパリッ!」
 軽やかな食感と、ふわんと安らぐ香ばしさ。
 私はいつも不思議に思ってきた。
(アイスを包んでいるのに、どうして、このモナカは湿気を帯びることなく、いつもこんなにパリパリのままなのだろう?)
 モナカのほんのりとした温もりと、軽やかな食感の向こうに、ビターなチョコの予感がする。……と感じるや否や、本命の冷たく甘いアイスがやってくる。そのアイスの中心に板チョコがサンドされていて、これが壊れるたびパリパリとした快い食感を奏でる。モナカ、チョコ、アイス。この三者のバランスが絶妙なのだ。
 実は今回、森永製菓のホームページを見て「チョコモナカジャンボ」の秘密を知った。モナカのパリパリ感を守るために、モナカの内側にチョコがコーティングされていて、アイスの水分がモナカに移るのを防いでいるのだという。
 モナカが湿気を帯びず、いつも軽やかに「パリッ!」と砕けるための細やかな工夫がそこにあった。モナカの食感の向こうに、かすかに感じたビターなチョコの「予感」は、そのコーティングのチョコの味だったのだ。
 そして、見た目ではわかりにくいけれど、「バニラモナカジャンボ」のモナカの内側も、ホワイトチョコでコーティングしていているという。そして、これがバニラの味を邪魔せず引き立てる縁の下の力持ちなのだという。
(知らなかった!)
 改めて「バニラモナカジャンボ」を食べてみた。すると、袋を破いた途端、鼻先にふわんと優しく懐かしい香りが広がった。ミルクの甘い香りである。
 モナカは「チョコモナカ」のパリパリ感に比べ、ややもっちりしているが、私はこのもっちり感も好きだ。
 モナカの内側に目を凝らしても見えないが、齧ってみると確かに、コーティングされたホワイトチョコレートの甘みがわかる。その向こうからやってくるミルクのコクと甘み……。
 四十五年、愛され続けるには理由がある。

森永製菓のホームページ