身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2005年4月―NO.31
  3

私はこれを食べるたびに、
いつもバージョンアップの進化の過程を 頭の中で反芻してしまう

立田野の「白玉クリームあんみつ」


立田野の「白玉あんみつ」
立田野の「白玉あんみつ」
(画:森下典子)

 それからも、母と渋谷を通るたび、東横線の改札の前から通路を渡って、よく立田野で「白玉クリームあんみつ」を食べた。高校、大学時代には、渋谷パンテオンで「猿の惑星」「ベンハー」「アラビアのロレンス」など、たくさんの映画を見た。映画の帰りには、丸めたプログラムを小脇に抱えて、立田野に入り、スプーンを口に運びながら映画の余韻に浸ったし、大学時代は渋谷が通学路だったから、日常的に寄り道した。
 卒業して雑誌の記者になってからも、疲れて渋谷を通ると、足が自然に通路に向かった。立田野に入って、どっと腰を下ろすと、自分のうちに帰ったような気がした。
 東急文化会館が取り壊された時、私には寄り道して一休みする場所がなくなった……。
 先日、母が、横浜西口のジョイナス1階にある立田野で「白玉あんみつ」をテイクアウトした。カップの中に、寒天、豆、アンズ、餡子、白玉、黒蜜などが、それぞれ小分けして入っている。アイスクリームも買ってきて、わが家で「白玉クリームあんみつ」を再現した。
 とろけるような味に、目が宙を泳いだ。
 2012年には、東横線と営団地下鉄13号線が相互乗り入れになり、東急文化会館の跡地あたりは大規模開発されるらしい。
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