身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2005年12月―NO.38
  3

ブリン、ブリンと噛むと、 白い身から、じわんじわんと、
魚の旨みが出てきて、 口いっぱいに広がる

魚貞蒲鉾店の「すまき」


魚貞蒲鉾店の「すまき」
魚貞蒲鉾店の「すまき」
(画:森下典子)

 魚貞蒲鉾店のすまきは、昔の蒲鉾を思わせた。
 鍋焼きうどんのショッキングピンクの蒲鉾を見るたび、蒲鉾の存在意義そのものを疑う私が、魚貞のすまきだけには、
「あぁっ、おいしそう……」
 と、唾液が湧くのを感じる。
 ストローを外して、包丁で切る。丸い断面のまわりがギザギザになっている。思わず端っこを一切れ、口に入れる。
 噛むと、ふにゃふにゃなんか、していない。しっかりとした歯ごたえが、
 ブリン、ブリン、ブリン……
 と、はね返ってくるのである。新鮮な蒲鉾だけに特有な食感である。
 すり身にされ、形が棒状になっても、新鮮な魚は、やっぱり違うのだ。その歯ごたえの中に、
「自分たちは魚だ!」
 という、瀬戸内海の魚の気概が感じられるかのようだ。
 ブリン、ブリンと噛むと、白い身から、じわんじわんと、魚の旨みが出てきて、口いっぱいに広がる。
 私はわさび醤油を、ちょっとつけるのも好きだが、さっぱりとした塩味がついているので、何もつけずそのまま噛み締めると、また、しみじみ魚の味がわかる。
 これで熱燗を飲んだら、どんなにいいだろう。そうして、今年こそ、年末年始をゆっくりとすごせたら……。
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