身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2007年11月―NO.61

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なるほど、これは何もいらない。醤油もネギも鰹節も邪魔になる。
豆腐って、そういうものだったのか!と、膝を打った。

太田豆腐店の「竹豆腐」


太田豆腐店の「竹豆腐」
太田豆腐店の「竹豆腐」
(画:森下典子)

 今年の秋は、もう一つ、竹林のイベントに誘われた。小さな美術館の裏山で行われた月見のパーティーである。
「どうぞ、こちらへ」
 と、案内され、石段を上がっていくと、夜の美しい竹林の中に、金属製のドームが現れた。大きなお椀を伏せたような形で、どこか雪国の「かまくら」を思わせた。中に入ると、ドームの天井が開いていて、そこから煌々と輝く月が見える。
 竹林にさやさやと風が渡るのを聞きながら、 ここでいただいたお酒とお料理の味は忘れられないが、中でもパーティーの参加者たちが、
「ねえねえ、これ食べた?ちょっと食べてごらんよ」
 と、それを指さし、互いに肘つつき合ったのが、何やら青竹の筒に入ったものであった。
  「竹豆腐」と、書いてある。その上紙を取り、その下のビニールの封をぺりぺりはがすと、竹筒の中に、こんもりと丸い豆腐が入っていた。

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