身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2008年2月―NO.64

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人はこんなにささやかな飴菓子で、豊かさを感じることがある。
九重本舗玉澤の「霜ばしら」


九重本舗玉澤の「霜ばしら」
九重本舗玉澤の「霜ばしら」
(画:森下典子)

 そのお菓子は、空気のように軽い。舌に乗せると、体温でスーッと溶け、跡形もなく消えていく。
 あるような、ないような……。
 そんな、夢のようにささやかなあのお菓子が、忘れられない。
 ふだん東京では売っていないのである。宮城県の霊峰・蔵王に雪が舞い始める頃、菓子職人さんが作り始め、冬から早春にかけて売り出され、春には消える。
 取り寄せたくてホームページを見たら、
「目下、注文に追いつけず、30日ほどかかる」
 というようなことが書いてある。なにしろ、
「日々の天候を見ながら手作業で作っている」
 というのである。気温、湿度など、一定の条件下でなければ作れないらしい。
 この「日々の天候を見ながら、手作業で」というところが、マニアにはまたたまらない。
(あ〜ん!)
 無性に食べたくなって、製造元に電話してみた。すると、なんと奇遇なことに、都内のデパートの宮城県物産展で販売中だとわかった。
  コートをひっかけ、すっとんで買いに行った。

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