森下典子 エッセイ

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2003年3月―NO.6

  


上品な餡の甘さと、
塩気のきいた桜葉の香りが混ざり合う
そのバランスは、
他のどんな味にも似ていない
長命寺桜餅山本やの「桜餅」


仙太郎の「桜餅」
(画:森下典子)

 その日の帰り、銀座三越地下一階の和菓子売り場をのぞいた。どの和菓子屋さんでも「桜餅」と書いた短冊を提げていて、その前にお客が集まっていた。
 桜餅には、クレープのような焼き皮で餡を包む「長命寺」流と、「道明寺」という半透明のぶつぶつした米粒のようなもので餡を包んだ二タイプがある。もともと関西地方では「道明寺」が主流らしいが、デパチカには、「長命寺」「道明寺」どちらも揃っている。
 中でもひときわ人だかりしていたのは、「仙太郎」という店の前で、桜餅は、あわや売り切れ寸前だった。私は三つ買って帰った。
 長命寺「山本や」に比べると、小ぶりな葉っぱが二枚付いていた。けれど、こちらは「道明寺」で、どちらかというと「おはぎ」に近い。
 葉っぱ一枚にくるんで食べた。ペリッと葉が千切れ、もちもちした道明寺が破れて、口の中がフワーッと甘くなった。
 その時、天気予報が流れた。
「関東地方のお花見のピークは、4月6日の日曜日になりそうです」

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