身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2004年1月―NO.16
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思い焦がれた「花びら餅」は、まさに想像したとおりの味がした
私はその時、「満足」とは、こういうことをいうのだと思った

とらやの「花びら餅」


千両
千両
(画:森下典子)

 昨年の大晦日、掃除の手を休めて一服しようとテレビをつけたら、『大奥』の再放送をやっていた。何を隠そう、私は『大奥』のファンである。
 『大奥』といえば、昭和40年代には、土曜の夜の楽しみだった。「上様、おなりぃ〜」の声で、長い廊下にずらーっと居並んだ女たちが、ドミノ倒しのようにお辞儀していくシーンと、
「13代将軍家定さまは、〜でございました」
 という岸田今日子の湿りのあるナレーションが、なんとも淫靡な雰囲気をかもし出し、中学生の私はとり付かれたようにテレビにかぶりついていた。
 今回の『大奥』も、大奥総取締り役・瀧山を演じる浅野ゆう子の、
「大奥は、女の牢獄でございます」
 という決めセリフが、いやが上にも、おどろおどろしい雰囲気を盛り上げていた。
 その『大奥』の中に、安達裕実の演じる皇女和宮が登場し、公武合体のシンボルとして、京都から江戸の徳川家に降嫁するという場面を見た時、私は不意に、柔らかく薄甘い味を思い出し、口の中にじわじわーっと唾液が湧いてくるのを感じた。
「そうだ。お正月だから、あれ買って食べよう」
 私が、有吉佐和子のベストセラー小説『和宮様御留』を夢中になって読んだのは、大学2年の時だった。『和宮様御留』は、和宮が実は、江戸に下る直前、京都で「替え玉」とすり替えられていた、という大胆な仮説を描いた物語である。
 フキという貧しい少女が、わけもわからぬまま、和宮の身代わりにさせられていく。フキは、慣れない公家の暮らしが不安で恐ろしいばかりである……。けれど、そんな日々の中で、たった一度だけ、フキが、
「今日は、なんという日だろう」
 と、幸福を感じたことがあった。フキを歓喜させたのは、ある食べ物だった。
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