身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2005年8月―NO.34
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ん〜、「すぐき」と茶漬けはよく似合う
土井志ば漬本舗の「すぐききざみ」


お茶碗とお箸
お茶碗とお箸
(画:森下典子)

 わが家の食卓に、漬け物の出ない日は、一日もない。自家製の「ぬか漬け」のほかに、田舎の親戚から送られてきた「本干したくあん」。友達が旅行のお土産に買ってきてくれた「野沢菜漬け」「牛蒡の味噌漬け」などなど、常時、2,3種類の漬け物が並んでいる。
 母は、毎日一度は、台所の床下にあるぬかみその瓶に手を入れてかき回し、中から色のくすんだキュウリやナスを引っ張り出して、代わりに新鮮なキュウリ、ナスを埋める。母が旅行に出かける時は、
「ぬかみその手入れ、忘れないでね」
 と、私が仰せつかる。
 小さい頃は、台所のぬかみその匂いがイヤで、おばあちゃんが漬け物樽にずぶっと手を入れ、ぬかみそまみれになるのを見て、
「汚いなぁ……」
 と、顔をしかめたものだったが、いつしか、その「ぬかみそ臭さ」を、えも言われぬいい匂いだと思うようになっていた。
 きっと、「風土」というのは、ぬか床みたいなものなのだ。どんな人も、日本の風土にどっぷりと漬かっていると、そのうち味が染みて日本人くさくなる。私もとうに「日本人の古漬け」だ。いまや漬け物がなくては生きていけない。
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