身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2006年2月―NO.40
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長く厳しい冬を越えて、やっと春は来る。
そんな北海道の歓喜が、 このチョコレートの中に、 詰まっている気がした…

六花亭の「ホワイトチョコレート」、 「ストロベリーチョコレート」


この包装紙も大好き
この包装紙も大好き
(画:森下典子)

 二月は年に一度の「チョコレート購買推進月間」だから、どこのデパートでも、ここぞとばかりにチョコレート売り場を拡大している。
 ヘフティ、デメル、ゴディバ、レオニダス、ヴィタメール……と、外国のブランドチョコレートが1粒1粒ガラスのケースに陳列されている様は、まるで「食べる宝石」である。
 そんなチョコレート売り場の一画に、ひときわお客で賑わっている店があった。次から次へと人が集まり、品物が売れて行く……。覗いた途端、見覚えのある包装紙が目に入った。
「あ、六花亭!」
 六花亭は、北海道・帯広に本店のある製菓会社で、「マルセイバターサンド」や「ホワイトチョコレート」で有名である。
 北海道に行った方はご記憶と思うが、道内の主な都市には、必ず六花亭の店がある。駅や空港にも六花亭。
 「ハワイのお土産といえば、マカデミアチョコレート」
 であるように、北海道土産といえば、この「六花亭の「ホワイトチョコレート」か、あるいは「白い恋人」(石屋製菓)。それくらい、北海道じゅうに、六花亭の包囲網が張り巡らされているのである。
 ところが、津軽海峡を渡って本州に入った途端、六花亭は見えなくなる。それは見事なくらい、ピターッと……。
 ある日、ふと、六花亭のホワイトチョコレートが食べたくなり、
「デパ地下に行けば、あるんじゃないの?」
 と、軽い気持ちで買いに行ったりしても、見つからない。そうなって改めて、北海道以外では一切、店頭販売をしていないということにハッとするのである。
「北海道でしか買えない」
 ここがミソである……。いつでも自分の手の届くところにいると思っていた相手が、ある時、遠くに行ってもう会えないとわかると、急に魅力的に思え、愛おしさが増すのと同じだ。全国どこでも買えるようになっちゃあ、ありがたみが薄れる。
 六花亭は、そこのところをよくわかっている。外国の高級ブランドチョコレートが軒を連ねる中で、瞬く間に人だかりができ、あっという間に商品が完売したのは、ベルギーのでもフランスのでもイタリアのでもなく、北海道のチョコレートなのであった。
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