身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2006年11月―NO.49

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舌がとろんとなり、それは、心までしみて、私はとろんとなった
さいとう製菓の「かもめの玉子」


さいとう製菓の「かもめの玉子」
さいとう製菓の「かもめの玉子」
(画:森下典子)

 その卵の形が、実にかわいかった……。
 鶏の卵よりも一回りほど大きく、一方の先がやや尖っている。卵の殻の表面は、蝋のように白く、つるんとなめらかで、何となく透けた感じもあり、殻の薄さが感じられる。掌にそっと載せてみると、ぽってりとした重さがあり、まるで本物の卵みたいだ。
 私は、実際のカモメの卵を見たことはないけれど、大きさといい、色といい、カモメの卵とはきっと、こういうものだろうと思え、眺めていると楽しくなるのだった。
 思えば、卵の形って、なんて面白いのだろう。継ぎ目も、はぎ目もない。どことなく、のほほんとユーモラスで、平和で、それでいながら、中の大事なものをしっかり守っている。自然界の究極のデザインのように思えた。その卵の形を、お菓子としてデザインにした大船渡の「さいとう製菓」は、目のつけどころが良かった。
 その形をとっくりと愛でてから、私は「かもめの玉子」の尖った先から頬張った。すると、
(…………)
 舌がとろんとなり、それは、心までしみて、私はとろんとなった。
 蝋のようにつるんとした白い殻は、ホワイトチョコレートのコーティングであった。そのコーティングの危うい薄さは、体温で即座に溶けるよう計算されたものなのだろう……。フランス菓子などで、時々耳にする「フォンダン」とは、「とろける」という意味だそうだが、まさにこのコーティングは「フォンダン」。たちまち口どけして、人をたぶらかすようにできているのである。
(うふ〜ん)
  私はそれまで、ホワイトチョコレートなどに、こんなふうにたぶらかされたことはなかったが、この卵の殻に、あっさり陥落してしまったのだった。

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