身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2010年1月―NO.86

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マネケンの「ベルギーワッフル」ができ、日本にワッフル・ブームが起こった。
今では、誰もがワッフルを知っているし、食べたい時いつでも食べることができる。

マネケンの「ワッフル」


「風と共に去りぬ」
「風と共に去りぬ」
(画:森下典子)

 「神さまに誓います。私はこの試練に決して負けません。家族に二度とひもじい思いはさせません。きっと生き抜いて見せます。そのために、たとえ盗み、人を殺しても……。神さまに誓います。私は二度と飢えに泣きません!」
 映画『風と共に去りぬ』の中に登場する、私の最も好きなセリフである。ヒロイン、スカーレットが、南北戦争で焼け野原となった故郷タラに戻った日、ひもじさの極限で、荒れ果てた畑の干からびた泥大根にかぶり付き、吐いてしまう場面だ。畑に這いつくばって、飢えと惨めさに号泣したスカーレットが、やがて立ちあがり、拳を握りしめ、決然と神に誓うのが冒頭の言葉である。
 初めて渋谷の映画館で『風と共に去りぬ』を観たのは中学3年生の時。それから、かれこれ10回以上、この不朽の名作を観てきたと思うけれど、毎回、このシーンが始まると、私は両手の拳を強く固めずにいられない。
 『風と共に去りぬ』を観ている3時間42分、私は完全にスカーレットの激動の人生を生きる。アトランタが陥落した日、出産したばかりのメラニーと赤ん坊を馬車に乗せ、私も命からがら戦火の中をかいくぐり、敗残兵のうようよしている焼け野原を、タラのわが家へと旅するのである。橋の下に身を隠し、どしゃ降りの雨に打たれ、私は映画館の椅子に座りながら、疲れてへとへとで、焼けつくようにひもじいのだ。
 だから、やっと故郷タラにたどりつき、スカーレットがわが家を見て走り出すシーンを見ると、私は泣かずにいられない。
 北軍の略奪にあったわが家に、出迎えて抱きしめてくれるはずの優しい母親の姿はなかった。スカーレットの母はすでに病死していたのだ。食べる物もなく、姉妹も使用人たちも、みんな飢えていた。
 ひもじさと悲惨の極限で、大地に打ち伏して号泣したスカーレットが、再び立ち上がり、拳を握りしめて、
「二度と飢えに泣きません!」
 と、神に誓う姿を見る時、私の中で「パチン!」と、何かの電源が入る。体の中から、むくむくと入道雲のように「生きる力」がわいてみなぎり、私は生まれて初めて今、目が覚めたような気持ちになって、
「さあ、生きよう!」
  という意欲に駆り立てられる。なんだか、やたらに奮い立ちたくなるのである。

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