身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2010年1月―NO.86

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マネケンの「ベルギーワッフル」ができ、日本にワッフル・ブームが起こった。
今では、誰もがワッフルを知っているし、食べたい時いつでも食べることができる。

マネケンの「ワッフル」


トラはトラでも「張り子のトラ」
蜂蜜
(画:森下典子)

 高校2年生の冬休み、マーガレット・ミッチェルの原作を読んだ。すると、原作の中には、たくさんの食べ物が登場した。南北戦争以前の南部の裕福な階層の食卓には、朝から食べきれないほどのご馳走が並んでいた。それらはまるで今、私の目の前の食卓に、朝の白い光を浴びて置かれているかのように、バターが溶け、パンがこんがりといい匂いに焼け、ジャムが艶やかに光り、クリームが滴って、ことさらおいしそうに描かれているのだった。
 敗戦後、スカーレットは食べる物のない暮らしの中で、豊かな時代、あふれるほど食卓に並んでいた食べ物を思い出しては、幾度も幾度も脳裏に強く思い描いた。
「バターが滴り落ちる鶏のフライ」
「ベーコンや卵のフライ」
「黄金に焼けたパン菓子」
「肉汁が浮いたキャベツのスープ」
「ナイフが入りそうなくらい濃いクリームがかかったカボチャ」
 そして、あの頃は、なんて無意識にものを食べていたんだろうと、思う。
 私も、本を読みながら、それらの食べ物を思い描いた。
 その中に、しばしば登場する食べ物があった。「ワッフル」である。
「糖蜜をたっぷりとかけたワッフル」
「朝食の皿の上のワッフル」
 ワッフル……って、どんな食べ物だろう?
 それが、どんな形をした、どんな味のものなのか知らないのに、「ワッフル」という耳慣れない言葉の響きが、ものすごくいい匂いのする、おいしそうなものに思えてならなかった。
 空腹のスカーレットがかつて食べたご馳走を脳裏に思い描くように、私はまだ見たこともないワッフルを頭の中に思い描いた。
  文脈をたどると、それはおやつにも朝食にもなる焼き菓子で、パリッと軽く、甘い蜜などをかけて、食べるらしい……。妄想していると、なんだか甘く香ばしい匂いが漂ってくるようでたまらなかった。

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