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![]() 身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子 |
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2004年5月―NO.20 | |||||
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と思っていたカステラと和解したのは、3年前である。ある日、知人から包みを手渡された。 「長崎の松翁軒のカステラよ」 初めて見る箱だった。カステラ、と聞くだけで頭痛がしたはずなのに、チョコレート色の地に、レンガ色で長崎の古地図を印刷したその包装紙に心惹かれた。そのカステラは、「南蛮菓子」に見えた。 箱を開け、包装を解き、包丁で一切れ切ってみた。薄紙をペラーッと剥がした時、昔やったように、前歯でこそいでみた。甘さの中に、ふと、味噌に近いコクを感じた。 スポンジの黄色は優しくまろやかだった。断面は、細かくきめがそろっていた。フォークでギューッと押し切った。ふわーっと再び広がったスポンジの、もろもろと黄色くそばだつ切り口が、再び食べたい気持ちにさせた。 一口食べた時、卵の素朴な風味に、ふっと、 「カステイラ」 という、南蛮菓子の古い名を思った。甘さも、ねっとり、ではなく、さっぱりとしている。地層の一番底にはザラメが残っていて、それがかすかにジャリジャリとした触感を楽しませてくれる。その時、黄色いスポンジと、茶色い焦げ目の組み合わせをつくづくと眺めて、 (美しい!) と、私は改めて心から思った。 | |||||
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