身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2005年3月―NO.30
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あの黒く焦げた皮や、まわりにはみ出した「みみ」を思い出すと、
たまらなくなる

柳屋の「鯛焼き」


水仙
水仙
(画:森下典子)

 鯛焼き、といえば、よく「尻尾までちゃんと餡子が入ってる」かどうかが言われるが、「手焼き」だと、どうしたって多少は偏りができる。餡子が外にはみ出ることもあれば、おなかのあたりに多めに詰まり、尻尾には行き渡らないこともある。私は子供の頃から、この「偏り」が、大好きなのだ。
 だから鯛焼きの尻尾は、最後に食べる。この日私が食べた鯛焼きは、尻尾まで餡子が行き渡っていたが、尻尾の先が揚げせんべいのように香ばしく、パリパリとして、皮にかすかに塩気があった。
 この時から、「人形町の鯛焼き」は、私の好物の1つになった。あの黒く焦げた皮や、まわりにはみ出した「みみ」を思い出すと、たまらなくなる。横浜から電車に1時間以上乗り、わざわざ買いに行ったことも何度かある。
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