身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2009年1月―NO.75

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なんだろう、この安堵感。
埋まり込みながら、 顔がすっかり緩んでしまうのだ。

まい泉の「ヒレかつサンド」


まい泉の「ヒレかつサンド」
まい泉の「ヒレかつサンド」
(画:森下典子)

 そうだ。あれはたしか、小学校5年生の時だった。その日、突然、男の子と女の子が、別々の教室に呼び集められて、先生から特別な授業を受けた。
 「性教育」だった。
 女の子は、将来赤ちゃんを産むために、毎月「生理」というものがあることを、男子、女子、別々に聞いたのだった。
 すでに「初潮」を迎えている女の子も何人かいたらしいが、ほとんどの子はまだで、私もその一人だった。
 特別授業が終わり、別の教室で話を聞いた男の子たちがぞろぞろと帰ってきた。
(なんて言うかな?からかわれるかな?)
 ちょっと決まりが悪かった。ところが……。私はその日の男の子たちのことを思い出すと、なんだか胸がほんのり暖かくなる。
 みんな、とっても優しくなっていたのだ……。いつも黒板消しで女の子の頭を叩いたり、乱暴な口をきいたりする男の子も、急に親切になっていた。女の子をからかう子なんか、誰もいなかった。
「女の子って、生理とかあって、いろいろ大変なんだな」
 私の隣の席にいた小柄な男の子が、労わるように私に言った。
その日の放課後の掃除の時、いつものように机と椅子を教室の後ろに動かそうとしたら、
「いいよいいよ。僕がやるから」
 と、男の子が率先して運んでくれた。あっちでも、こっちでも、男の子たちが、いつになく甲斐甲斐しく働いていた。
 その時、私は子供心にも、ほっこりと暖かいものに包まれるような幸せを感じた。あれは、
「女性として大事にされる」
 というよろこびだったと思う。同時に、
(男の子って、本当は優しくて、かわいいんだな)
 と、思った。
  もし、あんな気持ちのまま、女として、男として、成長できたら、どんなに幸せな人生だろうと、今でも思う。

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